クレーム相談室

実際に体験したクレームの報告です。楽しんでもらえるよう小説風にしています。登場する団体や個人の名称等は実在する人物や団体等とは関係ありません。

担当者が来ないせいで引っ越し先の部屋に入れないとクレームになった話

電話が入った。

「担当者が来ないので引っ越しの荷物が運べない」と。

最初の電話を取った担当者の話では、女性の声で、優しく不安げな声だったという。

 

新居入居の場合、引っ越しと同時に新入居者に鍵を渡す。

渡すと同時に、部屋の内装に瑕疵があるかどうか確認していただく。

この一連の作業は、当然貸す側の社員が担当する。

我が社はそれ以降のトラブルの聞き役で、それ以前の話は関知しない。

しかし、引っ越しの時間に貸す側の担当者が遅れるケースはよくある話だ。

こんな電話はしょっちゅうかかってくる。

だからこの程度のクレームでは誰も動じない。

 

担当者に連絡し「もう少しお待ちください」とお願いするだけでいい。

もっとも、この連絡だけでも、お客様からの罵詈雑言で心折れることは

しょっちゅうなのだが・・・

 

しかし、今回はあっさり納得されたのか無事終わったと思っていた。

担当者につながらなかったので、留守電に入れたと報告があった。

担当者の名を聞くとSだという。

嫌な予感がした。

過去Sには何度も泣かされている。

理不尽が服を着ているような男だ。

 

一時間後再度クレームの電話が入った。

受話器を取った瞬間、男性の怒鳴り声が響いてきた。

「来ない、連絡もない、お前の会社はどうなっているんだ」と。

 

どうやら先に電話を掛けてこられたのは奥様の方で

今回は旦那様のようだ。

 

一時間ナシノツブテでは、それは怒るというもの。

よく1時間も我慢されたと、そちらの方を感心する。

慌てて別の者に、Sに連絡するよう指示し男性の相手をする。

受話器の向こうからは、私でも納得する話を大声で叫んでくる。

悪いのは誰が考えても、Sの方だ。せめて連絡ぐらいしてほしい。

 

引っ越し業者から追加料金を請求されたと仰っている。

お前のところが払ってくれるのだろうな・・・

 

少しやばい。

 

お金が絡むと、話は極端にややこしくなる。

言葉だけの謝罪は、心理的負担は残るが、実質被害はない。

我々のストレスは給料の中に含まれていると考えられている。

しかし違約金等が発生すると、誰かが金銭的負担を負わなくてはいけない。

つまり、責任の所在が明確になってしまうのだ。

 

Sに連絡が取れないという。

引き続きその上司に連絡。上司も出ない。

その上の上司に連絡するが、その上司も出ない。

この先には連絡できない。しても実質の業務には役に立たない重役連中だ。

することそれ自体が、クレームになる。

 

これは困った。

 

対策の、立てようがない。

 

とりあえず、鍵屋さんを走らせた。

開けてもらうためだ。

このままではお客様の荷物がどこにもおけなくなる。

 

幸い、鍵業者は10分程で到着し、業務の料金発生を了承し、開けていただき

荷物の搬入はできた。

 

Sから連絡が入ったのは、それから約1時間後。

道路が混んで到着に2時間かかってしまったという。

概要を説明し、応急的に移動してもらった鍵屋さんの費用が発生したことを説明すると

Sさん急変した。

 

誰の指示で鍵屋を動かしたのかと。

 

誰にも連絡つかなかった旨を説明しても納得しない。

道路が混んでいたからしかたがないだろうと、子供みたいな言い訳をする。

混んでいても電話ぐらいかけられるだろうに。

こんな時だけ法令順守を言いくさる。

我が社が下請けだからと舐めての発言なのだろう。

 

後ろから肩を叩かれた。

振り向いて、メモ用紙に書かれた文字を読む。

荷物を運び終わったお客様から、担当者はいつ来るのかと問い合わせが入っているという。

 

まだ、お客様に会っていないのだ、Sは。

内面からリラックス。健康家族の【GABA】

聞いてみると、会ってもクレームを言われるだけだから会わないという。

新しい鍵はどうするのかと聞けば、幸い鍵屋さんが作れるから合わせて発注したという。

おいおい、ひどいじゃないか、鍵屋とは裏で連絡取っていたのだ。

私がした事、全て知っているのだ、Sの奴。

 

S曰く。

鍵屋と相談し、今回の件は、新しい鍵の発注で事を収めるから、私が勝手にした鍵屋発注の件は水に流してやる。

いつの間にか私が悪者になっている。

 

Sの奴、対応をすべて、鍵屋さんに任せ、自分は会わないつもりなのだ。

なおかつ、自分のミスも、我が社のミスとして押し付け、無かったことにする気だ。

要領が良いというか、悪賢いというか、とにかくあくどい。

引っ越し業者からの延滞料金は、払えないと客を納得させてくれ、と

言いたい事だけ言って電話を切ってしまった。

 

幸い、引っ越しの実作業が早く終わり、遅れた時間がさほど最初の予定時間と変わらなかったので引っ越し業者からの追加料金は無かったという。

まあ、あっても、のらりくらり、業者さんと直接交渉すれば、この程度の時間はなんとかなるのでさほど心配はしていなかったが、腹立たしいのは、担当Sだ。

 

このまま終われば、味を占めてまた同じことをする。

現に今回のようなことは、前もあったという。

 

試しにSに電話してみた。

案の定出ない。

留守電にすらしてない。

今日はもうSに連絡しても絶対でないだろう。

 

Sの上司に電話してみた。

同じように出ない、留守電になる。

留守電に吹き込むことにした。

 

「新居入居のお客様で、S様が道路渋滞で約束の時間に間に合わず、怒っておられたお客様の案件、S様の指示通り、鍵屋B業者の方に対応していただき無事終了しました。S様に連絡がつきませんので、念のため結果報告だけA課長にさせていただきました」

 

嫌味満載の電話だ。

 

翌日A課長から電話が入った。

「済まない」とねぎらいの電話と「Sには十分言い聞かしたから」とお詫びまで。

A課長には、鍵屋Bからも泣きが入ったという。

こんな仕事は手間ばかりかかり、利益にならないから、もう許してくれと。

客から罵詈雑言浴びせられ、この金額では割に合わないと。

やはり、Sは何度も同じこと、やっているらしい。

 

「朝起きるのが苦手らしいんだ、Sは」苦笑気味のA課長の一言。

 

もう、笑うしかない。