クレーム相談室

実際に体験したクレームの報告です。楽しんでもらえるよう小説風にしています。登場する団体や個人の名称等は実在する人物や団体等とは関係ありません。

不正はしちゃダメだけど撲滅するのは難しい…不正を見つけても程々にしておいた方がいい話

バブル期の話。

私がまだ技術部から追い出されず、メンテ110番に行く前の話です。

 

バブル期はとにかく予算はどんぶり勘定。

領収書もいい加減、とりあえずどんな経費も領収書の態を為すものさえあれば、たとえメモ書きでも許されていた頃です。

 

通常警備機器の取り付け工事一切は、規模にもよりますが数十万の世界です。

ところがバブル期は大型工事になると数千万規模にもなっていました。

セクハラ部長が戻って来たと社内がざわついた。

 

大坂のある、大型ビルの持ち主、名前を出せば年配の方なら誰もがご存知の会社です。

テレビや週刊誌にも出ていましたから、飛べや、歌への、時代でした。

このビル会社、○○ビルの契約が決まってから、技術部の予算が膨らみました。

従来の10倍近い利益を技術部単体で生み出すようになりましたから、当然鼻息も荒くなります。

 

我が物顔で技術部員が肩で風切る時代になりました。

カメラ、警備用機器、ビル専用の警備機器は1台数千万にもなります。

それを月に2棟、多いときは3棟も新築ビルが建つのです。

世間がバブルなら、技術部は超バブルになりました。

 

残念なのは、私は別の会社からこの会社に入社したて。

新米ですから、バブルの恩恵にはあずかれません。

 

聞くところによれば、その頃の部、課長は東南アジアによく遊びに行っていました。

私もよく写真を見せられたものです。

その写真にはいつも若い女性が写っていました。

最初は、羽目を外し、恥ずかしい行為を外国でしているとばかり思っていましたが、私が浅はかでした。そんな生易しい代物ではありませんでした。

写真に写っているのは「現地妻」だったのです。

私の想像をはるかに凌駕していました。

自分の娘と言ってもいいぐらいの若い娘を、現地に囲っていたのです。

「囲った方が安い」

そう平然と言うのです。

 

今でしたら即解雇ですよね。

 

部、課長以外でも、業者と仲の良い担当者も、同じように現地妻の恩恵にあずかっていたようです。

金銭授受ではなく、現物支給というのでしょうかね。

しかし、こんなことはいつまでも続くはずはありません。

バブルが弾けると、宴は終わりです。後に残ったのは違法の山。

 

発端は、在庫の多さでした。

ビルの新築を見越し、1台数千万もする警備機械を見込みで何台も買っていたのです。

バブルが弾け○○ビルが倒産すると、見込発注した機械はどこにも使えません。

そんな高い機械使って警備するビルなど無いからです。

 

それでも最初の頃は社内の会計審査をすり抜ける事が出来ました。

社長も同罪だったからです。

しかし利益が減り、赤字近くになると社長が交代しました。

我が社は大手企業のグループ会社でしたから、社長の交代はグループ会社の偉いさんの鶴の一声で決まります。

 

新しい社長は厳格でした。

本気で会社を立て直す気で乗り込んできたのです。

当然技術部の不透明会計に疑問を持ちます。

しかし長年誤魔化す事のみに精力を費やしてきた我が技術部の幹部連中、上手く隠し通します。

なんてったって、社内には同罪の連中が沢山います。

技術部の悪行がばれれば、他の部の悪行も芋ずる式にばれてしまうから、隠す事には協力します。

 

私も会計検査の日に、倉庫に置いてある在庫品を業者に持ち運ぶ作業をさせられました。

悪事に加担したことになりますが、社内の上層部の半数以上が悪事に加担していますから、ぺいぺいの私達がどうこうできるはずがありません。

しかし、敵、ではなかった、社長も負けてはいません。

実務畑からのし上がって来た人ですから、抜け穴は百も承知。

まず業者を呼びつけると、我が社の悪事に手を貸していたことがわかったら契約をしないと脅しました。

脅したというか、まっとうな事をいっているだけなのですが、これにはさすがに業者も困ったでしょう。

 

それまでは悪事に手を貸さないと契約を切ると脅していた、我が技術部の幹部連中達の言うことを聞いていましたが、それより権限の強い社長から反対の事を言われれば、そりゃ社長派に寝返るのは当然です。

 

かくして会計検査の日、在庫が多すぎる事が発覚し、それが発端で使途不明金が2億に上る事がばれ、社長は激怒。

全員解雇になるかと思いきや、なんてことない管理職一律で減給処分で終わってしまいました。

ゆるゆるの裁定です。

最も、管理職の半数以上(聞くところによれば全員)が悪事に手を染めており、解雇したら管理職がいなくなることに気づいたのかもしれない。

それと、前社長の責任も追及しなければいけないが、そこまで手を伸ばすと、藪をつついて蛇が出ることを危うんだのかもしれません。

なんといっても前社長はグループ親会社の会長と仲が良い。下手を打てば新社長の方が飛ばされる可能性があります。

 

改革は程々がいい。格言です。

やり過ぎると、とんだしっぺ返しが襲って来ます。

 

結局、一連の騒動は、強風ふいて葉が数枚散った程度で収まったわけですが、社長の怒りは収まりません。

技術部は解体。以降技術部とは名乗らず、保全係と名乗るよう通達が下りました。

技術部の組織はそのまま残り、名前を保全係に替えられたのだが、これは実質大きな変化になりました。

 

部が解体し、係になったことは、予算権をはく奪されたのです。保全課は社長直轄の部署となった。つまり人事権、予算権が全て社長の意のままになったのです。

 

おかげで今まで簡単に落ちていた、電車賃、電話代などの会計処理が厳しくなり、挙句に2か月遅れでしか戻ってこないのです。ひどいにも程があります。

何も悪いことしていない課員が被害を受け、美味しい蜜を吸っていた幹部連中には減給以外おとがめなし。世の中本当に理不尽です。

 

ちなみに保全課が、技術部に戻るのには5年の年月を要しました。

いわゆる、悪さした幹部連中が定年退職でいなくなるまで続いたわけです。

 

組織というのは怖いものです。法律も組織ぐるみで破れば怖くありません。

それを改善するのには並大抵の力ではできません。

そう考えると、新しい社長の手腕、凄いとしか言いようがありません。

 

我が社、新社長になってから売り上げが右肩上がりで伸びていきました。

少しはまっとうな会社になってきたという事でしょうか。