クレーム相談室

実際に体験したクレームの報告です。楽しんでもらえるよう小説風にしています。登場する団体や個人の名称等は実在する人物や団体等とは関係ありません。

連続盗難の犯人はまさかの・・・管制員の驚くべき推理力

小売りスーパーのチェーン店が連続して盗難にあった。
最初は2店舗同時に襲われた。
犯行はわずか5分。
それ以上はいない。
5分以内で作業を片付ける。
とても手際が良い。

週一で2店舗ずつ、襲われる。
被害が10店舗を過ぎると、さすがに警察も本腰を入れ出した。
途端に、犯行をやめる。
まるで現場の状況を見ているかのように。

次に別の飲食店チェーンが襲われ始めた。
我が社が警備している店舗だけではない。
他の警備会社が警備している店舗も同様に被害にあっている。

内部犯行説が疑われたが、チェーン店が違うので搬送業者犯人説が浮上した。
しかし犯人は中々捕まらない。

次にまた別の飲食店チェーン店が狙われた。
警察は新聞公表を控えた。
明らかに内部犯行説を考えているようだ。

我が社だけで、30店舗近い被害があったが、ある日を境に犯行がピタリと止まった。
疑心暗鬼していたが3ケ月も犯行が無いと、油断が生じる。
その油断を見透かしたように、また最初の小売りスーパーチェーンを襲い始めた。
しかも今度は地域を変えてだ。

それまでは、通り道で2店舗、順番に犯行を行っていたが、今回は同時刻、遠く離れた店舗が同時に襲われた。
明らかに2チームいる。
警察の対応は、後手、後手に回り、中々犯人が捕まらない。

我が社の従業員にも身辺調査が入ったと噂が出回る。
どこまで本当かわからないが、警察に呼ばれるのかもしれない従業員の名前までまことしやかに噂される。
しかし、今回は5店舗、しかも我が社警備の店舗だけが襲われた。
半年前の犯人がまた始めたと、皆色めき立った。
警察も本気だ。

管制員にMという男がいた。
物静かで、淡々と業務をこなしているが今一、何を考えているのかわからない男だ。
その男から面白い提案を聞いた。
今回の盗難は犯行に一定のパターンがあると。

聞けばSが乗務するコースの隣接コースが被害にあった店舗だという。
Sは最近入社した新人だ。
調べてみたら確かにその通りだ。
今回5店舗を5日で襲われているが、全てSが乗務するコースの隣コースが被害にあっていた。
なんでわかったかと聞けば、被害にあった店舗に支援で移動する時間が早すぎると思ったからだと。
盗難事案が発生したら、隣のコースが支援で移動する決まりがある。
隣のコースから移動するので早くとも20分以上はかかる。
しかしSは10分前後で到着している。

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ちなみに半年前の被害については、Sとの関連性はない。
今回の5店舗だけだ。
つまり、今回の事件に限って、Sが犯人、あるいは犯人を知り得る人物じゃないかと疑っている。
まさかと思って、念のためSの対応記録を調べてみたら、5店舗盗難時、彼のコースでは警報対応が無い。
しかも警報が出にくいコースに乗った時、犯行が起きている。

カギは機動隊だから、いつでも複製できる。
やろうと思えばいつでもできる。

Mは言う。
今日Sは8コースに乗務している。
8コースは、夜間の警報対応はほとんどない。
隣接のコースで、盗難にあっている小売りチェーン店があるのは2コース。
そのうち1コースは既に被害にあっているから、狙われるとすれば7コースだ。
7コースには小売りチェーンは3店舗ある。
そのうち8コースから一番近い店舗はJ店舗だ。
今日J店舗が狙われるかもしれないというのだ。

まわりの管制員も疑心暗鬼だ。
しかし、無視するわけにもいかない。
Mの話には信憑性がある。
念のため7コースの警備員に、J店舗で貼りつくよう無線で指示をした。
Sにも聞こえるように。

その日はどの店舗も被害にあわなかった。

翌日、社内がざわざわしている。
Sが警察の事情聴取に引っ張られたという。
そのまま逮捕となった。
Sが犯人だった。

半年前の犯行を真似て、罪を半年前の犯人になすりつけ犯行に及んだという。
社内は大騒ぎだ。
現職の警備員が盗難の犯人だから、下手をすれば業務停止を免れない。
マスコミにも滅茶苦茶叩かれるだろう。

幸いというか、汚いというか、犯人のS。
前職は警察官。父親は府警のさる、お偉いさん。
Sは警察で不祥事を起こし、任意退職。その足で、親父のコネを使い我が社に就職。
盗難があった時点で、警察は最初からSを疑っていたようだ。

結局、盗難にあった小売りチェーン店の偉いさんと、我が社のグループ会社の偉いさんと、警察の偉いさんが合同協議して、盗難事件は無かったものとして闇に葬られた。
当然Sは任意退職。泥棒して任意退職は大甘だが、被害者が折れ、警察も無かった事で良いと、言えば我が社としては願ったりかなったりの結果だ。

被害額が盗難防止用に置かれていた少額紙幣だけであり、かつ鍵も合いカギで中に入ったので破損はない。
当然Sが複製した小売チェーン店の鍵は我が社ですべて交換した。

詳しいことは我々の耳に入らずのまま、結局事件はうやむやになり、結果何も無かった事に落ち着いた。警備会社ではよくある話だ。

恐るべきは、Mの推理力だ。
Sの犯罪癖を知らないのに、犯人を警察と同時に特定してしまった。

闇に葬られた機動隊盗難事件の方は(よくあること)として別に誰も驚かなかったが、Mの推理力は絶賛された。
そのM、相変わらず黙々と仕事をこなしているのだが、私は思うのだ。

就職先、間違えたのじゃないかと。