クレーム相談室

実際に体験したクレームの報告です。楽しんでもらえるよう小説風にしています。登場する団体や個人の名称等は実在する人物や団体等とは関係ありません。

契約内容を無視して怒鳴り散らし恫喝してくるクレーマーを契約通りの対応でおさめた話

係長から○○スーパーの××店に行ってくれとの依頼が来た。

××店には癖のある店長がいる。

○○スーパーは全国チェーンを展開している大手のスーパーだ。

大手のスーパーには癖のある店長が結構多い。

殆どは優しく、人当たりもいいのだが、店舗だけでも幾百あれば

確率的に癖のある店長がいても不思議はない。

 

S店長は、下に強く、上に弱い、典型的な権力男。

相手の立場を見極めてから、襲い掛かってくるのだ。

S店長の牙に噛まれ、辞めていった我が社の中間管理職もいる。

今回も係長、S店長と聞いて尻込みしたのだ。

S店長の言動が凄い。恫喝一本やり。

パワハラを感じる暇もないほど、一気にまくし立て、相手を追い込む。

止めは補償。

つまり、金をむしり取る事だ。

 

S店長の言い分としては、失敗したのは君の会社のミス

そのミスで発生した損害は、君の会社で払うは当然だと。

まさに正論だ。

一部の隙も無い。

 

しかし、契約書にはちゃんと、今回のような場合は保険金で対応すると

記載してある。

保険金を使えばいいが、使えば保険料が上がる。

上がる事自体はS氏的にはどうでもいいのだろう。

問題は、保険金を上げるに至った責任を本社から指摘されるのが嫌なのだ。

 

今回のミスとは、このような事案だ。

 

○○スーパーにはたくさんの冷蔵庫、冷凍庫がある。

この温度管理を我が社がしているのが、スーパーの冷機機器はよく壊れる。

修理には費用もかかるし、多少の故障は直さずそのまま使う。

必然的にトラブルも多い。

 

商品が溶けた、使い物にならないと。

 

今回も冷凍機の故障で商品ロスが出た。

被害額は10万円。

あくまで店長の言い分だ。

しかしこの金額、中途半端な金額だ。

この金額が問題だ。

この程度の被害額なら、保険金の支払いにさほど影響はない。

だから保険適用すればいいのだが、S店長の持論は違う。

 

ここからは推測だから、10万程度なら下請け(いわゆる我が社)が

払うにさほど多い金額ではない。○○スーパーの代紋ちらつかせれば

今後の事を思い我が社が支払うだろうと。

 

原因は冷凍庫の故障だが、現場で確認した警備員が故障の判別を

するのに時間がかかりすぎた、それが商品ロスを生んだ原因だと

指摘する。

この手で過去も我が社が支払わされている。

 

係長も前回対応して、汗だくで戻って来た。

その時はロス金3万円だったので、係長が自腹で事をおさめている。

 

つまり歴代の職制のツケが今に至っているのだ。

S店長、払う気などサラサラ無い。

 

お鉢が私に回って来た。

係長、最悪補償金払うことで話まとめてもいいという。

だったら自分で行けばいいのに。

S店長とは、金輪際話をしたくないらしい。

 

で行ったわけだが、この手のクレーム処理は、実はさほど難しくない。

結論が、最悪金銭対応でいいと、確約をもらっているからだ。

嫌なのは、話のついでに、解約をちらつかされること。

チェーン店だから、一店長が警備会社の契約まで本来は口をはさめないのだが

何と言ってもこの店長「解約」させた実績がある。

 

前契約警備会社を切って我が社と契約しているのだ。

今となっては、解約された警備会社は喜んでいるだろうと思うのだが

我が社はそうはいかない。

三年契約のまだ半分ほどしかたっていない。

途中解約は、それ自体始末書物だ。

 

S店長と会う。

私の名刺を見て顔を歪めた。

私の肩書は「主任」だ。

すかさず「御社のK部長からS店長の事はお聞きしています」

と頭を下げる。

K部長とは○○スーパーの本社に勤めている。

S店長より偉い人だ。

 

私が何故K部長と知り合いか、それを話せば長くなるので割愛するが

とりあえず、趣味で知り合った仲間だ。

人脈は、利害関係の無いときに知り合った人程、パイプは太くなる。

K部長とは某文学学校の受講生同士。

勿論二人共、会社には内緒で受講している。

お互いの会社に関連性がある事に気が付いたのはつい最近だ。

 

人の心理は面白い。

組み安し、と思わせた瞬間、そうでないとわかると効果が倍増する。

 

S店長、係長でなく主任が来たことで今回の話、勝ったと思ったのだろう。

そこにいきなり本社の部長と知り合いの私が来たから、不気味に思う。

 

すかさず本題に入る。

「商品被害の保険適用についての書類はどういたしましょうか」と。

被害金額は我が社が持つものとばかり思っていたので、見る見る顔が赤くなった。

怒鳴るぞ、これは。

思った瞬間、五分程、暴力団も顔負けのひどいお言葉。

受け流しておいて

 

今回の場合契約書では、保険を適用することになっています。

と事実を伝える。私の方が正論なのだ。

 

保険など関係ない! と怒鳴って来たので

 

事故報告書の束を店長に見せた。

過去5回温度対応で対応した際、冷凍機のコンプレッサーが調子悪く

このままでは商品ロスを起すから、早急に修理お願いしますと記載してある報告書の控えだ。

今回商品ロスを起した冷凍機は、この冷凍機。何度も注意喚起しているのだ。

直さなかった、あんたのせいだ!

 

対応した担当者を、本題に入る前に威嚇し、有無を言わせないやり口はやくざまがい。

しかし、そんなことに怯んでいたら、クレームの対応などできない。

罵声は毎日聞いている。

口汚い言葉は右から聞き、左から流す。訓練は十分だ。

 

解約するぞと凄んできたので、今解約すれば御社に違約金が発生する旨伝えた。

違約金の金額は10万を優に上回る。

少し計算すればどちらが得かすぐわかる。

 

止めに、もしご不満があるならば、営業経由で御社の本社と話し合いさせていただきます

と頭を下げる。これ以上話し合いの余地が無いことをはっきり知らせる。

S店長私を睨みつけた。ここで本社のK部長と私が知り合いの効果がやんわりと効いてくる。

心理学でいう後光効果だ。

 

結局保険適用となった。

 

勿論この成果は私を抜擢した、我が係長の手柄となる。

私もそれに異論はない。

私には何のメリットもない。

雇われ社員の悲しいところだが、しかしこれでまた、私のポイントは確実に増えた。

 

会社において、平社員が役職と対等にやり合うには方法は一つしかない。

相手に役に立つと思わせることだ。成果はくれてやる。

そうすれば、煙たくても、移動はさせられない。

組織において、人事権は大きな力だ。役職は奉らなければいけない。

「Win-Win」の関係こそ、理想的なのだ。