クレーム相談室

実際に体験したクレームの報告です。楽しんでもらえるよう小説風にしています。登場する団体や個人の名称等は実在する人物や団体等とは関係ありません。

他人のクレーム処理をすることが自分のメリットになる話

会社から緊急呼び出しがあった。

 

メンテ110番の責任者になれば当然だ。

休みの日にかかって来たのだから、よほど緊急なのだろう。

 

基本私は休日の仕事はしない。

その為に今の部署にいるのだから。

しかし組織の中に入れば、おのずと我儘にも限界がある。

しつこい電話は出るに限る。

結局最後は自分の為になる。

メンテ110番とは私が勤める会社の、クレームを一切引き受ける課の呼び名だ。

名前は恰好良いが、内実は凄まじい。

仕事がすさまじいのではない。

ここに配属される課員がすさまじいのだ。

 

クレームを受けるアルバイト従業員は別だ。

いわゆる正社員と呼ばれる人、これがすさまじい。

 

メンテ110番がある課は、俗称ゴミ捨て場といわれる。

面と向かって言うものはいない。

中にいる課員が自虐的に言っているだけだが・・・

 

誰だってクレーム担当の課に配属などされたくない。

任命されても、神経の細い人は辞めていく。

補充は直ぐ来る。辞めさせたい人材は会社には腐るほどいる。

そいつらが補充され、弱いものは辞めていく。

残ったものは、強者ばかリ。

 

ゴミは隅っこに固まる習性がある。

会社組織も同じだ。

使い物にならなくなった、あるいは使いにくい従業員は自然と一か所に集まる。

 

そこがメンテ110番だ。

 

解釈を誤ってはならない。

ゴミだからと言って、並のゴミではない。

見方を変えれば、そこいらの従業員より仕事は出来る。

能力も上だ。

ただ、扱いにくいだけなのだ。

否、扱えない上司が多すぎるのだ。

 

残るゴミにも残る理由がある。

居心地がいいからだ。

 

給料は、一般職では最上級の職能給クラスだ。

いわゆる残業単価が社内では一番高いクラスに属する。

人手が足りないから、残業がいやでも発生する。

それも、やたら多く。

当然手取りは多くなる。

 

課長クラスより手取りは断然多い。

残業代で稼げるからだ。

だから、ゴミ課呼ばわりの課が、気が付けば最強の課になってしまった。

どこの課でも、上司の手に余る「いわく付き」の課員ばかりになったからだ。

 

そこそこ働き、給与もそこそこある。上司に対する気兼ねもいらない。

欠点は唯一、出世が出来ない事だけだ。

 

もともと出世など、とうに諦めている連中だ。

むしろ管理職になど、なりたくないとさえおもっている。

最初は1人、やがて2人.3人・・・

気が付けば課員の大半がいわくつきの連中ばかりになっていた。

 

社内で何かもめ事が起きても、メンテ110番の誰かが行けば、すぐ解決する。

もともと、どこそこの職場で大きな顔していた奴が、上司にたてついて島流しの刑になっただけだ。

元の職場での威力は、顔を見せるだけで他の従業員はビビル。

 

そこに、半年前島流しにあって来たのがSだ。

Sの名を聞き、課員の全員がビビッタ。

Sの噂話は誰もが知っている、

ビビらせる側の連中が、本気でビビッタのだ。

 

Sは東大に次ぐ大学といわれるK大出身者だ。

我が社は、会社の規模は大きいが、世間的ステータスは低い。

会社の分類が警備会社だからだ。

K大出身の新卒者がわざわざ入社する会社ではない。

 

当然合格し、本社採用になって東京にいたのだが、やはり曲者。

どの管理職ともそりが合わない。

語ることは正論だが、従業員だという自覚がない。

部下が上司に命令する。

平気で、この仕事は自分の仕事じゃないと、指示されても拒否する。

怒る上司を、理論と威嚇で黙らせる。

 

SはK大の空手部出身。図体もどでかく、顔もいかつい。

しかも頭が切れるときている。

そこいらの管理職が扱える代物ではない。

「触らぬ神」状態になった。

全国の支社に回され、当然のように最後は我が社のゴミ捨て場に来た。

 

偉いもので、神格化されたボスキャラに雑魚キャラはすぐなびいた。

ゴミはゴミの実力を一目で見抜く。

敵わないと。

 

今まで自由奔放だった我が課の雰囲気が一気に固まった。

Sは体育会系で、妙に律儀だ。

正論が極論過ぎて、煙たがられているのだ。

曲がったことが大嫌いなS、規律をめちゃくちゃ重んじる。

凄いのはその規律を、自分が一番犯していることに気が付かない事だ。

 

その彼が、クレームの受付係になったのだから、誰もが興味津々だ。

 

この世は常識が通用しない。

普通クレームが入ったら、受けては腰が低くなるのが常道だ。

ところがSはすざましく上から目線、怯まないし相手を小ばかにしている。

完全に教師が生徒を諭すようにクレームを聞く。

最初聞いたときは、これはやばいと思った。

しかし、不思議と上から目線の受け答えが、効果的なのだ。

 

一つにはSの揺るぎない信念のたまものだろう。

疑念が無い。疑念が無いから迷いもない。

ひたすら、クレームを言って来た人に正論を言い、上から目線で諭す。

疑念が無いから、声質から相手も圧倒されるのだろう。

殆どが成功し、無難にやり過ごしていく。

まさにSならではの対応だ。

誰もがマネできる手法ではない。

 

しかし世の中は、そうそう甘くない。

殆どのクレームはSの対応、いわゆる力技で抑え込めるが

中にSと同じタイプのクレーマーが出現する。

この場合は悲惨だ。

小さな火に火薬を放り込むようなもの。

クレームは大爆発する。

 

大体、月に1度この爆発が起きる。

この爆発の後処理が私に回ってくるのだ。

 

私と、Sとは立場上同じ主任だ。

私が彼の尻ふきをするいわれは全くない。

しかし、会社はそうは思っていないようだ。

メンテ110番の職場での責任者が私になっている。

なっていると言って、その為の手当てをもらっているわけではない。

単に、私が一番この課での古株だから、なんとなく無言の事実関係が出来上がっているだけだ。

いわゆる、傍目から見れば、超損な役目だ。

 

しかし私は喜んで(喜んでいるフリをしているだけだが)引き受けている。

問題児Sの尻ふきをすれば、私の立場はSより上になる。

Sが私に歯向かえない事実関係を作ることが出来るからだ。

理解力の有るSにその道理がわからないはずが無い。

 

私がそんなことをする必要が無いのに一つ返事で引き受けることで、私の存在を押し上げる効果につながる。人の嫌がる仕事を処理する奴は一目置かれる存在になる。

こんなことは団体心理の常道だ。

 

ゴミ捨て場の職場で、自分の居場所を探そうと思えば、そこの職場で、それなりの存在感を示す必要がある。

Sのクレーム処理は、その為にうってつけの案件なのだ。

私は人の嫌がる仕事を楽々こなす人間だと思われている。

そう、思われるように努力してきた賜物なのだが、人はそれを知らない。

 

Sのクレーム案件を処理することは決して楽ではない。

しかし、クレームはいつか解決する。

解決しなくても、私の責任ではない。

元々私の仕事ではないからだ。

 

人の失敗の尻ふきは、他人が考える程実はそうたいしたことではない。

担当者が変われば、クレーマーの怒りは小さくなる。

上手くいけば、担当が変わったその事実だけで、事は収まってしまう。

元々のクレーム処理より、実はポイントさえ押さえれば楽なのだ。

 

今回の案件も、電話一本で片付いたのだが、Sから感謝の言葉はない。

感謝の言葉が無いことはSが負い目に思っている証拠だ。

だから私も黙っている。

黙っていると必ず他から、Sの不義理な態度をなじる言葉が私のところに聞こえてくる。

それを、まあ、まあと笑いながら押しとどめていると、私の評価は、さらに上がる。

我ながら、結構腹黒いと思っている。

腹黒くなくては、この課で楽しく仕事はできない。

 

そんな、なんやで、ゴミ捨て場での仕事は続くのだが

具体的なSのクレーム対応と、その解決策。

そしてSのその後については、また後日に話したいと思う。

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