マンションの廊下に血痕があるとコールセンターに連絡が入った話
廊下が血だらけだとの情報が、コールセンターに入った。
賃貸住宅会社Eの緊急受付センターへの情報だ。
賃貸大手Eの会社から緊急受付を委託されているだけの部署なので
基本、直接現場を確認することはできない。
情報提供者はそんなことを知らないから、とにかく現場に誰かを来させろとの一点張りだ。
もう少し詳しく話を聞いてみると、血痕は、入り口からエレベーター内、そして5階の
情報提供者のS氏玄関先まで点々と落ちているという。
思わず生唾を飲み込む。やばい話だ。
ここまで聞けば、これはもうコールセンターで扱う範疇を超えている。
警察通報をお勧めするも、相手は頑として拒否する。
理由を聞けば、警察には部屋に入ってもらいたくないという。
話の状況から、警察を呼べば、最後は警察を部屋に入れないと話が収まらない事を知っている様子。
普通ならば、警察と一緒に部屋に入りたいだろうに、それを拒むとは怪しい。
後ろ暗さ満載だ。
だんだん、話がうさん臭くなってきた。
時間は夜中の2時。
情報提供者S氏の話し方から、少しアルコールが入っていることも推察できる。
呂律が回っていない。
酔っぱらいの戯言かもしれないが、聞くのが業務だから切る事も出来ない。
ご自身で連絡するのが躊躇われるのなら、コールセンターから警察に連絡しましょうかと再度提案しても、嫌だの一点張り。
とにかく誰か一人、寄こして欲しいと言って聞かない。
ここで突き放してもいいが、本当に何かがあれば、それも厄介だ。
念のため情報提供者S氏の情報を確認する。
掛けてきている携帯の電話番号は、間違いなく登録されているS氏の番号だ。
警察が駄目なら、お知り合いに連絡しましょうかと提案するも
そんな奴がいたら、とっくに自分で電話していると、鼻の先で笑われた。
笑ったからなのか、突然「お前馬鹿か」と矛先が私に向かって来た。
私が馬鹿な理由を、4つほど端的に説明する。
実に理論的だ。
流暢に私が、いかに馬鹿かあげつらう。
よかった。正気を失う程には酔ってはいないようだ。
私の名前を聞いてきた
正直に答える。
ここで、拒んだり、偽名など使ってはいけない。
拒めば、それに対する揚げ足を取られるし、偽名はコンプライアンスに抵触する。
いや、するらしい。
電話対応は正直であらねばならぬらしい。
正直こいていては、コールセンター業務など務まらない。
嘘をどの程度まぶすかが、熟練の味なのに。
正直者は心が壊れる。
壊さないためには嘘の鎧が必要。
嘘は方便ではなく、必需品なのに。
コールセンターへの電話は録音されている。
問題になった案件は、必ず会社上層部が録音を確認し、対応した人間にも非がある事で一件落着にする。悪者はクレーマーと、対応した係員になる。
いわゆるトカゲの尻尾きりだ。
クレーム対応をする担当者は、誰にも守られていない。
大事になれば、クレーマーと共に、対応者も罰せられる。
管理職は、課員を守るために存在するのではなく
会社に被害が及ばないよう対策を善処するためにいる。
その為にはトカゲの尻尾は必要なのだ。
安価で補充が容易にきく、アルバイトが。
コールセンター員は自分の身は自分で守らなければならない。
敵はクレーマーだけではない。
正論を盾に襲い掛かる、怖い敵が社内にもいる。
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少し言い過ぎた。
そんな事はどうでもいい。
血痕S氏の話だった。
結局警備員をひとり派遣した。
建前的には、この業務に移動できる警備員はいないのだが、別の業務で付近に警備員はいる。
緊急時この警備員を動かすのだが、この手順がクソめんどうくさい。
いちいち上司の許可がいるのだ。
本来どんな案件も警備員を動かす場合、職制の許可がいるのだが
時間は夜中の2時過ぎ。
かければ、それぐらい自分で判断しろと言ったり、言わなかったり。
要は職制の気分次第。
真夜中に連絡すれば、まあたいがい、怒りはしないが、嫌味の一つはある。
ここは事後連絡で良しと、潔く判断。
近くにいる警備員を派遣。
マンションに着いた警備員にしばらく待機するよう指示するとともに
警察にも通報。
警察連絡は必要だ。警備員を守るとともに、私の立場も守ってくれる。
ややこしい話は警察にふれと、中間管理職は言う。その上の管理職は止めろという。
あまり警察に振り過ぎると、警察からクレームが来るからだ。
だから職制に連絡しても、明確な指示は出ない。
「君に任せる」この一言で済まされる。
警察係員に状況を説明すると、警官が着くまで、情報提供者S氏と、警備員を接触させないようとの指示が出る。何かを感じたのだろうか。とにかく警察の指示だから従うしかない。
しかし、ここから先は、警察が味方になってくれる。
情報提供者S氏がいくら警察を呼ぶなと言っても、血痕が、点々と部屋まで続いている話を聞けば、一般市民としての常識が優先する。
結局警察に説得され、情報提供者S氏、シブシブ自分の部屋に行き鍵を開けた。
最初警察に尋問された時、とぼけていたが、警備員の服をみて観念したらしい。
私から情報が全て警察に伝わっていると諦めたのだろう。
部屋の中に女性が一人、手首に包帯を巻き倒れていたという。
情報提供者S氏の元彼女らしい。
フラレタ悲しみで、自殺未遂、最後はS氏の部屋で死にたかったと・・・
詳細は、警察に警備員は追い出され聞けなかったが、痴情のもつれって奴だ。
幸い発見が早かったので、女性の一命はとりとめたもよう。
今思い返しても、ゾッとする話なのだが
結局、私は叱責されることになる。
結果的に、人命救助したにも関わらず。
・上司に警備員動かす許可を取らなかった
・そもそも本来は警察をすぐ移動させるべきだった
・元受のE賃貸業者担当者の許可を受けなかった
で始末書提出。
情報提供者Sさんに警察行かせますと伝えたら、Sさん現場から逃げ出していたはず。
電話の雰囲気では、部屋の中に元彼女がいる予感持っていた感じがする。
上司と、担当者に連絡したって、「臨機応変、君にまかす」としか言われず、結局自己判断するしかなかったはずだ。
始末書は書いたのだが、E賃貸業者の担当者と直属の上司には、大いに感謝されるという、意味の分からない結末になるのですが、これが日常、本音と建前の世界。
クレーム対応はストレスが溜まりますよ。
なんたって、敵は、社内にもいるのですから。