クレーム相談室

実際に体験したクレームの報告です。楽しんでもらえるよう小説風にしています。登場する団体や個人の名称等は実在する人物や団体等とは関係ありません。

機械音痴の勘違いクレームの対応は本当に面倒くさいと再認識した話

メンテ110番(クレーム対応係)にかかってくるクレームで多いのはやはり機器の故障だ。

 

我がメンテ110番には大きく分けて4つの業務がある。

一つは機械警備での指示役の管制業務。

機械警備とは、基地局で警備を監視し、警報が出たら現地に機動隊を移動させる業務だ。

 

一つは、現金輸送対応業務。これも管制業務と似た業務。

24時間現金配送している車両の指示監視業務といったところだ。

一つは納金機の修理対応業務。

納金機とは、テナントの売り上げを計算し保管する機械のこと。

銀行なんかにあるATM機器を連想してもらえばいい。

一つは賃貸会社の契約している、電話一次対応業務。

いわゆるクレーム対応だ。

 

大まかに分ければこの4つの業務がメインになる。

 

昼間は独立した業務だから、それぞれに担当者がつき、個別に対応している。

しかし夜間はクレーム件数が減る事もあり、まとめて対応する。

表向きは独立して、24時間専従の業務者を各々つけていることになっているが

内実は、そうではない。

民間は利益を出してこその仕事だ。利益を生まない間接部門は極力経費が抑えられる。

だから極力人件費も抑えられる。適正人員は、必要人員の8割が理想だとか。

一人が一人以上の仕事をしないと対応できない。

 

結局夜間は、相互の業務をまとめて対応する時間帯が生じているのが現状だ。

つまり夜間は4業務を1部署で見ることになる。

昼間は単なる質問が多いから件数も多いが、クレームは少ない。

しかし夜間は件数は少ないが入ればクレームだ。

クレームの密度も夜間の方が濃い。

夜間はメンテ110番対応係にとっては魔の時間帯になる。

 

今回かかって来たのは賃貸会社のクレーム。

季節は夏の真っ盛り、8月の上旬の20時頃。木曜日だ。

クーラーのリモコンが効かないという。

電池切れだろうと電話を取った人間は安易に判断し、電池の交換をお客様に依頼した。

あいにく単四の電池が無く、コンビニで買い求めを依頼し、お客様もここまでは素直だった。

22時過ぎ、再度電話が入る。別の担当者が電話を取った。

「電池替えたけど直らないじゃないか」

「はあ?」

担当員のこの一言で客がキレた。

担当者もわざといったのではない。意味が分からないから思わず出てしまったのだ。

積もり積もった怒りが、「はあ?」の一言で爆発したのだろう。

大激怒だ。

おそらくコンビニに行ってわざわざ電池を買って変えたのに直らない。

挙句に、第一声が「はあ?」だからだろうが、それは難癖というものだ。

電話取ったのは、何も知らない別人だから。

担当員、受話器を持ったまま唖然としている。よほどまくし立てられているのだろう。

 

結局電話が私の手に渡ったのは20分後。

それまでずっと、嫌味を言われていたのだろう。

ぐったりした表情で、私に電話を変わった。

すみませんと、目でアイコンタクト。

謝る必要はない。彼は被害者なのだから。

 

機械の故障は当日修理するなどと契約書には書いてない。

我々に文句を言われても埒外の話だ。

最も、そう正直にお客様には言えないのだが・・・

 

20分愚痴を聞いていてくれたのだから、客の怒りは収まっているはずだ。

ここまでくれば解決方法はさほど難しくはない。

時計を見る。22時半。

後は時間との勝負だ。今日が木曜日だということが安心の糧になっている。

とりあえず、明日は修理屋を派遣できる。

これが土曜の晩だと少し困る。最近の修理業者は、最低日曜日は休む。

修理の手配がつかないからだ。

 

まずは丁寧に謝り、わざわざ電池を交換していただいたことに礼を言う。

すかさず提案する。

クーラーのリモコンが壊れている可能性が考えられるから確認したいという。

確認方法はスマホについているカメラで、リモコンの赤外線が出ているかどうか確認してもらうのだ。

電話で方法を説明し、確認を頼む。

これでいったん電話を切る事が出来た。

本当はこんな事をしても意味がない。単なる時間稼ぎなのだ。

 

リモコンから赤外線が出ていようと、いまいと、クーラーを直せない事には変わりない。

要は時間を稼いで、とにかく0時を回らせることが必要なのだ。

ついでに顧客に付けられているクーラーの修理がどちらになるか、念のため確認する。

マンションのオーナー負担になっている。

この場合、オーナーに修理費用がかかる承諾を得なければならない。

勝手に修理業者を手配できないのだ。

オーナーに電話する前に、賃貸業者の責任者にも許可を取る必要がある。

どちらにしても22時過ぎは魔の時間。

オーナーに連絡しても、怒られ、しなくても怒られる。中途半端な時間なのだ。

 

23時半頃客から電話が入った。

たかだか赤外線が飛んでいるかどうか確認するだけの作業、ものの5分もあれば終わる作業を一時間かけてやっている。
そうとう機械音痴のお客様だ。

 

赤外線が飛んでいないという。

あれれ?だ。

当然飛んでいると答えが返ってくるとばかり思っていた。

 

そう、答えが返ってきたら対応はこうだ。

赤外線が飛んでいるのなら、リモコンは壊れていない。本体の故障が考えられる。

今から管理会社に電話し、オーナー様に修理の手配をしていいか確認後、業者を手配しますと。

修理が明日になるとは、決して口に出してはいけない。

あくまでも修理するつもりであることを悟らせなければならない。

ここで時間が重要になってくる。

 

オーナー様に連絡を取り、業者に連絡し、業者がお客様に宅にお伺いする作業員を手配するのに少なくとも2時間はかかる旨説明するのだ。

今はほぼ0時、早くても修理は午前2時過ぎになる。

勿論、現実的にはそんなことはしないし、できない。
業者が動くはずがないからだ。
修理が翌日以降になる事は、どんなクレームを言おうが変えられない事実なのだから。

しかしそれを正直に言えば、クレームにまた火がつく。

お客様に諦めてもらうしかない。

 

大抵の人は、金曜日は仕事だ。

さすがに徹夜までして修理に付き合おうとは思わない。

0時を過ぎれば普通の人なら、翌日の仕事を気にしだす。

 

結局このお客様も修理は、翌日でいいと、最終的に折れたわけだが、念のため乾電池の入れ方を聞いてみた。

なんとなく、反対に入れているような話しぶりだ。

もう一度、分かりやすく、乾電池の入れ方を説明した。

 

「あら動いた」

 

びっくりした言葉が飛び込んできた。

 

何てことない。

原因はリモコンの乾電池きれで、入れ方が逆さまだっただけだ。

しかし、翌日賃貸会社の担当者と、オーナーと、修理業者に手配を入れる面倒を考えれば

まさにラッキーとしかいえない。

 

結果オーライだ。

 

そしてこの苦労は、何も無かった事として水のように流れていく。

成功して当たり前、何かあればクレームを受け付けた者のチョンボとなるこの仕事。

まさに、悲惨の一言だ。