クレーム相談室

実際に体験したクレームの報告です。楽しんでもらえるよう小説風にしています。登場する団体や個人の名称等は実在する人物や団体等とは関係ありません。

スーパーの駐車場の隅に駐車したら、絡まれてしまった話

久しぶりの外作業だ。

事務所の中でクレームの電話を取っているよりは当然気分が良い。

まさに天国だ。

 

クライアントとの折衝も上手くいき車に戻った時事態は一変した。

 

時々思うことがある。

クレーム処理に対し、さほど重荷に思わなくなったのは、クレームの悪魔が憑ついたせいかと。

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最近、あちこちで、業務とは関係ないクレームに遭遇する。

クレームの方から寄ってくる感じだ。

クレームの悪魔は寂しがり屋だ。すぐすぐ憑つく。

 

私が車を停めたのは、某中堅スーパーの駐車場だ。

都心から離れているので駐車場は広い。

線引きもしていない、ただの空き地に車を停めるだけだ。

出入りのバーも設置されていない。

完全な青空無料駐車場だ。

 

一応無料とは言え、スーパー専用の駐車場だから遠慮して入り口から一番遠い場所に駐車した。歩くと結構な距離だ。

しかし、営業マンとしては当然の配慮だ。

 

これがいけなかったようだ。

クレームの神様がクレーマーを招き寄せた。

私の社名入りの車の前に右翼の街宣車が止まっている。

出られないようにしているのだ。

 

街宣車の中で寝ていた男がムクリと起き上がり外に出てきた。

黒ずくめの衣装で、背が低い。

(その筋)の人で背の低い男は凶暴なタイプが多い。

大柄な人は、喧嘩になっても、そもそも負けない自信があるのだろう。

余裕がある。言葉使いも抑え目な人が多い。

その点小柄な人は、舐められない対応策として、威嚇が凄い。

大声で怒鳴ってくる。

健全な市民は、この威嚇でビビってしまう。

 

プロになればなるほど、余程の利害関係が生じていない限り、まず暴力を先にふるってはこない。だから、こちらから手を出さない限り、身体への危険はさほど心配する必要はない。

なにせ相手は、街宣車を持っている(プロ)だから。

 

街宣車の男はニタリ私を見ると

 

「どう落とし前をつけてくれる」と凄んできた。

意味が分からない。

何が悪く、何に対して落とし前をつけなければならないのかさっぱりわからない?

首を捻っていると

 

「お前舐めとんか!」とまた威嚇。おっさんの顔を舐める趣味など私には無い。

 

おっさん、一気にまくし立ててきた。

すこしドモリ気味な口調のせいか、完全に意味を聞き取れなかったが、いちゃもんをつけられている理由はわかった。

 

つまり、私が停めたスペースは、おっさんがいつも街宣車を停めている場所なのだそうだ。

どこにもそんな印はない。

しかし、おっさんにはそんなこと関係ないらしい。

どうやら私は

「おっさんの駐車場に勝手に車を停めた悪い奴」らしい。

 

 

ここまで理不尽な言いがかりも珍しい。

挙句に、おっさんが勝手に専用駐車場にしている場所は、誰もが知っている事だと言い放った。

 

現実に私は知らない。

そんな告知も付近には無い。

店長からも聞いていない。

 

おっさん曰く。

知らないやつが悪。無知は犯罪だと。

なかなかの名言だ。しかしこの状態にはそぐわない名言だと思うのだが。

 

おっさんの独白は続く。

そもそも、こんな広い駐車場で、わざわざ入り口から一番遠いこの場所に

停めたお前(私の事)の魂胆が怪しいと。

被害者意識も甚だしい。て、いうより少し、普通ではない感触も持った。

本気でそう思っているようなのだ。

時折おとずれる、住人も私達を遠目で見ているだけで、誰も助けようとはしない。

 

どうやら(よくある)風景らしい。

離れる住人の苦笑が、それを物語っている。

こうなってくると少しやばい。

 

おっさんは、落とし前の方法として

腹を切るか(つまり切腹の事)

社長をここに呼んで来いと二つの提案をしてきた。

 

どちらも呑めない。

 

腹を切ったら死んじゃうし、社長など来るはずが無い。

私が勤めている親会社の社長は、経済関連の肩書をいっぱい持っている。

所在を探し出すだけで明日になる。

 

黙っていると

腹切るのは許してやる、指を詰めろと言って来た。

凄い展開だ。

生まれてこの方、指詰めを強要されたのは初めてだ。

 

車停めただけで、指詰めるのは痛い。

ドアに挟んで指詰めるのでも痛いのに、丸ごと切るのは

勘弁してほしい。

 

おっさん、私が「すみません」しか言葉を発していないことに

気付いたのか「お前本気で謝る気あるのか」と思い出したように

聞いてきた。

 

謝る気などあるか、ボケー

 

と言いたいところだが、ここは堪えて

 

また「すみません」

 

クレームの対応として、相手が理不尽な事言って来たら

無口に徹することが有効だ。

下手に抗弁すると、その抗弁の言葉尻捉えられて、また新たな

クレームが生まれる。

 

クレーマーが使う常套手段だ。

だから、とにかくひたすら、謝る事だ。

「すみません」「すみません」

 

相手の言うことに、すみませんと。

 

理不尽なクレーマーとの勝負は、飽きらせるしかない。

同じことを何度も言わせ、謝り、また言わせる

 

クレームの原因を一つに絞り、そこから拡散させないことが

重要になってくる。

 

相互の会話は、クレーム拡散につながるし、クレーマーは

それを狙っている。

 

2時間程、押し問答というか、一方的なクレーム攻撃が続いた。

「何故停めた」「知らなかったものですから」「知らなかったら

全て許されると思うな」「すみません」「すみませんじゃない、何故停めた」

「しりませんでした」・・・

 

これを延々2時間続けたわけだ。

私も偉いが(自画自賛)おっさんも凄い。

よくもまあ、2時間も同じこと繰り返す事が出来るものだ。

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それにしても店長は不人情だ。

私が右翼クレーマーに捕まっていることはわかっているはずだ。

それを2時間放置している。

まあ、おおよその想像はつくが。

 

やっと、おっさんが新しい提案をしてきた。

 

指詰めは許してやるから、土下座しろと。

 

ここで土下座したらせっかくの2時間がフイニなる。

土下座なんぞしてはいけない。

土下座して、その場を逃れられたとしても、後日このおっさんは、街宣車に乗って、我が本社に現れるだろう。

 

土下座はすなわち、私が非を認めたことになる。

その場を逃れるために、土下座は絶対してはいけない。

 

許されるのは言葉で「すみません」だけだ。

 

土下座しろ、できません、なぜだ、すみません、土下座しろ・・・

 

結局また、長い話のラリーが続く。

こうなったら、持久戦だ。

 

3時間過ぎると、さすがに店長も動き出した。

二人の制服警察官連れて、店の方から歩いてきた。

その姿を見て、おっさんその場を離れようとしたが

警察官が大声で

 

「○○そこ動くな」と怒鳴った。

 

名前まで知れ渡っているじゃん。このおっさん。

だったらもっと早く呼んでくれたらいいのに。

 

おっさん二人の警察官に挟まれ連行されていった。

普通、被害者の私も連れていかれるはずだが、警察官

私には黙礼するだけで、何も言わない。

 

あのおっさん説諭だけで許されるのだろうな。

つまり私、いわれ損(( ノД`)シクシク…

 

店長曰く

「外出していて、気がつかなかったもので・・・」

 

苦しい言い訳だが、得意先だ「いえいえ」と苦笑するしかない。

 

「あまり早く警察呼ぶと、機嫌が悪くなるもので・・・」

 

店長がボソッと呟いた。

何てことない、私を放置プレーしたこと、白状している。

 

「病気なんですか? あのひと」

気になってたずねたら

「少し心を患っているようで」

とまあ、綺麗な表現。

 

なんであのおっさんを放置しているのか?と尋ねようとしたら、雰囲気を察し

 

「この土地のオーナの息子なんですよ」

 

店長苦笑した。

そりゃ、強く言えないよな。

それにしても、あのおっさんに捕まった人、災難だよ

 

いつもは1時間ほどたって警察に連絡しているそうだ。

 

常連客はおっさんの事知っているし。

新しいお客さんが、駐車場の一番遠い場所には止めないし、停めるのは、関係者か、長期不法駐車する人ぐらいだと

 

関係者以外の駐車には、あのおっさん無言の圧力として、近所に広まっているから、案外役にも立っていると。

 

おいおい、許してくれよ。

 

最後に翌日、熱が40度近く出たので、我ながら3時間のストレスは大きかったと、改めて思ったのだが

 

ひどい話だ。