クレーム相談室

実際に体験したクレームの報告です。楽しんでもらえるよう小説風にしています。登場する団体や個人の名称等は実在する人物や団体等とは関係ありません。

心を病まないクレーム対応の仕方は?苦情に人生を翻弄されないために

「ぼけ」

「カス」

「責任者を呼べ」

「貴様本当に悪いと思っているのか」

 

1日8時間、こんな罵詈雑言を聞かされていれば人格が歪んでも不思議ではない。

それでもこのメンテ110番で正気を保っていられるのは、相手を人間だと思っていないからだ。

罵詈雑言を浴びせかける輩を、人間だと思えばその時点で人格は崩壊する。

 

よくクレームは宝の山とか、お客様は神様だとか、現場を知らない頭でっかちのトウヘンボクが、のたまうが、あんなのは嘘っぱちだ。
クレームはおかしな人種が言ってくる。正気な顧客はソコソコの所でクレームは止める。
ソコソコで止めない連中がクレーマーになる。
こんな連中を常識という武器で戦っても勝てるはずが無い。

 

クレーマーは人間じゃない。そう思い込む事こそ勝利の方程式になる。

 

罵詈雑言を言われ、貴様らにそんな事言われる筋合いはない、この糞ッタレ!

そう思えば相手を人間と認めたことになる。

罵詈雑言は、どこか別の世界で奏でる音楽だと思えば楽しくさえなる。

ここまで達観できれば、メンテ110番でのクレーム処理は容易くできる。

これを私は裏仙人と命名している。

 

裏仙人になれ、そうすればこの職場を去っても裏仙人のスキルは役に立つ。

そう言って私はバイト女子を洗脳している。

私が絡むと、女子アルバイトの離職率が低くなることを知った管理職は、私をメンテ110番の責任者に置いた。

責任者といっても手当てがつくわけではない。名目上の責任者だけだ。

何の得もない。ただ女子と話が出来る、それだけだ。

 

私の女子アルバイトの掌握術は極めて簡単だ。

飲み会を開く。それだけ。

ただし人選が肝心だ。

多人数で飲んだり、二人きりで飲んだり、臨機応変アルバイト女子のその時の精神状態を見て決める。

 

飲み会はアルバイト女子だけに限らない。

正社員女子も集める。

勿論自腹だ。

結構な金額が必要だが、これも必要経費だ。

投資をしないと利益は得られない。

私の場合、利益は情報だ。

 

お陰で女子会にも呼んでもらえるようになった。

そこで相談を受ける。相談を受けたらある程度のレベルまで解決してあげる。

完全解決が必要なのではない。味方であることを示せばいいのだ。

その為にも情報が必要になる。

情報は女子が持っている。

男子の情報などたかがしれているし、正確性に欠ける。

その点女子の情報は確実だ。その情報網は魑魅魍魎だ。誰にも整理できない。

だからこそ役に立つ。

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情報を得るために女子の悩みを解決し

悩みを解決するために情報を得る。

 

これが回転しだせばもう無敵だ。

 

我がメンテ110番にとんでもない美人が入って来た。

本社の秘書課にいた女子だ。

とんでもない美人と書いたが、想像以上の美人だと認識してほしい。

部長共が用もないのに我が管制室に訪問してくるのだ。

 

情報では社長の愛人だという。

奥様にバレそうになったので、緊急避難で我が課に来たそうだ。

それが証拠にクレームの電話は取らない。事務仕事専用の子だと係長は言う。

そもそも我が課に事務処理要員などいらない。

事務処理も含めて、何から何まで一人が最後までしてこその、一件落着だ。

美人さん、女子社員に甚だ受けが悪い。

しかし男子社員には、私も含め受けがいい。

 

男は美人に弱いのだ。

超美人になれば、なおさらだ。

 

男子社員にチヤホヤされればされるほど、女子社員に嫌われる。

ついでにチヤホヤした男子も嫌われる。

それでも男のチヤホヤは止まらない。

たとえ、相手が社長の愛人かもしれないとわかっていても。

遠くの権力より目先の美人だ。

 

その美人が、気まぐれにクレーマーの電話を取ったことから事件が起きた。

相手は名うてのクレーマーだ。

クレーマーというより、吸血鬼婆と呼ばれていた。

二か月に1回ほど、クレームを言ってくる。些細なクレームだ。問題は1度話始めたら電話を切らない事だ。

最低2時間、最長5時間という記録がある。

 

その吸血鬼婆の電話を美人さんが取ったのだから男共は固まった。

アルバイト女子は皆喜んで笑っている。

男共も渋い顔だが、誰も助けにいこうとはしない。

 

どうなることか、皆固唾をのんで見守っていたが、彼女2分程話すと、電話を切った。

嘘だろ・・・

電話を切らせてもらえたなんて。

全員キョトンとしている。

どんな魔法を使ったのだ・・・と思っていると彼女面談室に電話を持ち込むと扉を閉めた。

 

吸血鬼婆に電話をかけ直しているんだ。

しかもコーヒーとお菓子まで持ち込んで。

完全に長電話モードだ。

凄い攻防だ。

 

そうか、彼女暇だったのだ。あるいは寂しかったのか。

同じように暇持て余して電話してくる吸血鬼婆と気が合ったのだろう。

3時間ほどして彼女、スッキリした顔で部屋から出てきた。

大きく背伸びして

 

「ああ、楽しかった」

 

だって。

 

結局美人さん、3ケ月程で本社に戻ったが、その間ちょくちょく吸血鬼婆と楽しそうに電話をしていた。

美人さんがいなくなって、吸血鬼婆の相手がいなくなるから困ったぞ、と思ったが

吸血鬼婆からその後、クレームの電話が無い。

どうやら、美人さん、吸血鬼婆ごと、持っていってくれたみたいだ。

 

クレームもあんな解決策があるのかと、妙に感心してしまった案件だ。

 

そうそう、美人さん東京には帰ったが、本社には出社していないと聞く。

どこに行ってしまったのだろうか。

吸血鬼婆に聞いてみたい気もするが、さすがにそれはできない。